カシミヤにたどり着けない

 冬になると毎年のようにカシミ屋さんの前には、長い長い行列ができた。厳しい冬を越すために、唯一無二と言える温もりが求められたからだ。当時の人気はそれは凄まじいものだった。家族で並んだとしても、先頭までたどり着けることは、ほんどなかった。


「本日はここまでとなります」


 あと一歩のところで、完売が宣言された。旬のマフラーへの道程は思った以上に厳しかった。


「隣に行きましょう」


イズミヤ嫌だ。カシミアがいい」


「2階のパレットにもいいのがあるかもよ」


「パレットやだ。みんなカシミアだもん」


「よそはよそ。うちはうちよ」


「何それ? 当たり前の繰り返しじゃん。意味ないじゃん」


「A=A 公式の基本よ」


「姉ちゃんの知ったかぶり」


「背に腹は代えられんもんじゃ」


「じいちゃん何それ?」


「まだ早い。わしくらいになればわかる」


「ならないよ。姉ちゃん知ってる?」


「教えない」


「パレット行くから。ほんと知ってるの?」