エンドレス・チャリン

 憂鬱は時を長くする。単に時だけが引き伸ばされたとして、誰が幸せと呼ぶだろう。楽しいは時を速める。夢中になれば時を超えて未来へ進むことができるのだ。それは死への接近に等しいが、生まれるものがあることも見なければならない。駆け抜けて行くものは夢のように儚い。時は惜しいほどに楽しいものが含まれている。それは幸せと呼ぶことだってできるはずだ。未来は未知で危険なものかもしれない。だけど、時々、僕の胸は高鳴っている。現れるであろうものに期待を寄せて、僕は一歩前に進み出る。小さなコインを握りしめて、ガチャの前に立つ。


 
チャリン♪
 入れたコインが返ってくる。
 もう一度、気を取り直して。


「チャリン♪
 今は取っておけ。私を取っておけ」


 返ってきたコインがささやくのが聞こえた。
 しかし、そんなことでは経済が回らない。
 突き返す勢いで、僕はコインを押し込んだ。


「チャリン♪
 今日は独りじゃないの。今度、友達と来なさい」


 いや、そういうことじゃない。僕は独りで楽しむことを知っている。時代は今やシングルを推奨しているのだぞ。


 えいっ♪


「チャリン♪
 今はまだその時ではない。同志を集めでっかく使うのだ!」


 何だ何だ。革命でも起こせってのかい。いかれた玉だぜ。こんな戯れ言に耳を傾ける必要もなし。


 行くぜー♪


「チャリン♪
 これは受け取れません。本当に大事なもののために取っておきなさい」


 なんて遊べないマシンなんだ! 本当に大事なもの? それがわかればこんなとこまで来てないんだよ。こんなとこ? いやそんな捨てもんじゃないだろう。


 そーれ♪


「チャリン♪
 夏休みまで取っておきなさい」


「うっせーや」


「チャリン♪
 ええか稼ぐってのはな、案外大変なんやで。生意気な奴の言うことも聞かなあかん。デタラメな奴に頭下げなあかん。朝から晩までマシンのように働かなあかんねん。君わかっとんのかいな。粗末にすんな君……」


 大変だから何だって言うんだ。小銭がそんなに偉いのか。返ってくる度につけあがるコインに僕は嫌気がさしていた。
 外れでも何でもいい。(もはや空っぽのカプセルが出てきてもいい)ハンドルを回せたらそれでいいんだ。


 頼む!


「チャリン♪
 快楽に走るな!
 探究しろ! 成長しろ! 積み上げていくのじゃ!」


「ああもう、うっせーな。黙って落ちろ!」
 僕はコインを手にフロントに駆けた。

 


「すみません。このコインぶつぶつ言って変なんで替えてもらえますか?」
「はい? かしこまりました」


 おかしなコインのせいで時間を無駄にしてしまった。僕も少し意地を張りすぎてしまったようだ。これからは困った時にはもっと人に頼るようにしよう。
 気を取り直して、僕はマシンの前に戻った。
 改めてフレッシュなコインを投入する。


 何が出るかな?


「チャリン♪
 無駄なことさ。魂までは変えられないんだから」