「アンドロイド?」
「iPhoneだけど」
「17?」
「12」
「古いんだね」
「まだ新しいよ」
「ちょっとみせてよ」
「えっ?」
「うん、やっぱりあったかいね」
少し暖を取らせてほしいと言って猫は私のアイフォーンを枕にした。
「もういい?」
「もう少しゆっくりさせてくれないかな」
そう言って猫は譲らなかった。
「お客さん、何しましょうか?」
「冷やし中華」
冷やし中華。その言葉を聞いて枕の上にいた猫は、目を閉じたまま身震いした。風を送ったわけではない。直接水をぶっかけたのでもない。微かに猫を動かしたもの。それこそが詩の力ではないだろうか。理屈でなく、長い説明も必要とせず、ただの一撃で遠く離れたものを結びつけ、心の奥深くに眠るものを揺さぶってしまうとは。
「はいお待たせ!」
一口食べてこれだとわかる美味さ。自分の望むものが期待以上の形になって現れる素晴らしさ。
(ああ、美味いな……)
鏡を見なくても自分が笑顔になっていることはわかる。ただ美味しいものを食べたというだけで、どうしてこうなってしまうのだろう。笑顔でいるということは、幸せであるということだ。ならば、人間の探求する幸せとは、本当はもっとシンプルなものなのかもしれない。
(ああ、もう何もいらないや)
「ごちそうさん!」
「650円です」
「PayPayで」
そう言ってポケットからスマホを出そうとして、猫のことを思い出した。iPhoneはまだ猫が使用中なのだった。
「あの、猫は?」
さっきまでいたはずのテーブルの上に、猫がいない!
「猫なんていませんよ!」
(いるわけがない)
大将は少し怒っているように見えた。決して広いとは言えないが、隅々まで清掃が行き届いたような店内。確かにこんなところに猫はそぐわない。だったらあいつは……。
「千円から」
(あいつロボットだな)